子供の虐待、その実態と課題、進む対策について


子供が親から虐待され不幸にして亡くなるケースが毎年のようにニュースで流れます。虐待死に至らなくても、子供が親から虐待を受けて体や心に深い傷を負うケースが多いのも現状です。

2021年8月厚生労働省が全国の児童相談所の相談件数(児童相談所が対応した相談件数)を公表しました。それによると、2020年度の18歳未満の子どもへの児童虐待が過去最多の20万以上。虐待件数が20万件を超えたのは初めてで、30年連続で増え続けています。

ここでは、児童虐待について、その実態と課題、進む対策を説明します。

※厚生労働省で公表している「子どもとその保護者、家庭をとりまく環境に関する資料」(令和3年5月)を基にしています。

虐待による児童の死亡数とその年齢割合

出典 厚生労働省「子どもとその保護者、家庭をとりまく環境に関する資料」

 2018年度に報告された虐待死は73人。うち、心中による死亡19人を除く54人が、心中以外の虐待死です。心中以外の虐待死の人数は10年前からほぼ横ばいの状況です。

親などから虐待を受けて死亡に至った児童の年齢の内訳は以下です(平成30年度)

出典 厚生労働省「子どもとその保護者、家庭をとりまく環境に関する資料」

年齢ごとに見ると、0歳児が4割近くと最も多く、 2歳児以下で見るとその割合は50%を超えます。つまり、生まれてすぐに児童虐待の犠牲になるケースが多いのです。

当然のことながら、個々の事件については加害者に対し刑事的、司法的な責任を求める一方で、このような悲しい事件が起きてしまう社会的な課題に私たちは向き合っていく必要があります。

家庭環境、親子関係に支障をきたすような社会的な問題点があり、その結果として児童虐待が起こる社会背景があるのなら、その問題を把握して早急に改善しなければいけません。その問題の質や程度が地域ごとに異なるのなら、自治体や行政ごとの対応が求められます。

家庭問題を原因・動機とする自殺者数について

家庭問題を原因・動機とする自殺者数について説明します。

むろん自殺には複合的、複雑な背景や原因が連鎖して起こりますが、家庭問題を原因・動機とする自殺者数を把握することは、児童虐待が起こる社会背景の実態を知る上で重要です。

遺書など自殺を裏付ける資料があって、自殺原因や動機の推定が可能だった場合のデータが、厚生労働省によりまとめられています。それが以下です。

「家族問題」を原因・動機とする自殺者数
「家族問題」を原因・動機とする自殺者数 (出典:厚生労働省「子どもとその保護者、家庭をとりまく環境に関する資料」)

まず、19歳以下の『家庭問題を原因・動機とする自殺』では、「親子関係の不和」を原因・動機とした自殺者数は全自殺者142人中60人と最も多いことが分かります。

また、 「子育ての悩み」を原因・動機とした全年齢の自殺者数は130人で、うち約9割が女性でした。

この結果から、主に不健全な親子関係が悲しい結果が招いている実態があることが分かります。

実際、日常生活において「孤独を感じる」、「経済的に不安」、「家事、育児、仕事の両立が難しいと感じる」、「躾になどについて周囲のプレッシャーを感じる」、「子供の言動にイライラする」、「子育ての時間や人手が足りない」などストレスを抱えている養育者は、子供への体罰の行使頻度が高い傾向があることが分かっています。

また、子どもの年齢が低いほど、あるいは子育てを主にしている養育者ほど、体罰の行使頻度が高い傾向があることも分かりました。

相談、マネジメント

児童虐待の原因を、養育者の不安や育児ストレスだけに求めるのは図式の単純化かもしれません。

しかし、実際に子育てに悩み、その結果として児童虐待が起こっている現実がある以上、子育てに関わる親のサポートは児童虐待を防ぐ大事な対策となります(もちろん、それ以外にも児童虐待を防止するために進めるべき社会的取り組みは多くあるのも事実です)。

子育てに関わる親のサポートを手厚くするため、各自治体では子育て世代包括支援センターや児童家庭支援センターなどの整備を進めています。その地域で安心して出産、子育てできる環境づくりを進めています。

甲府市のケースをご紹介します。

甲府市では、保健師一人あたり80人程度の児童を受け持ち、健康診断、保健指導、生活環境の把握などを行うマイ保健師を開始しました。

保健師がより効果的に児童の状況を把握できるよう、市内19ヶ所の子育て支援センター・幼児教育センター・つどいの広場などの子育て支援施設が、甲府市の保健師と、児童の情報共有などの連携を行っています。

子育て支援センターは親子が日常的に集う場所であるため、職員さんは児童の様子を日々把握しています。そんな価値高い一次情報を、一定の条件のもとで保健師と共有・活用し、ケアが必要な子供の発見や支援に繋げる、それがマイ保健師の仕組みです。このような連携の取り組みは全国的にも新しいものです。

この取り組みについては『「第10回子ども・子育て支援全国研究大会2019in山梨」が甲府で開催されました』でも解説しています↓

未来を担う子供が安心して育つ社会でなければいけません。そのために、自治体や市民は取り組みを始めました。次回は、山梨県の児童虐待の対策、子育て支援にフォーカスします。

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