ユネスコスクールとは?そのメリットは?大きく羽ばたけ、山梨の国際教育!


2024年5月に、廣瀬は甲府ユネスコ協会の会長に就任しました。

そこで今回は、ユネスコが進める『ユネスコスクール』がどんなものか、その目的やメリットをご紹介します。また、県内の加盟校の状況や具体的な取り組みもご紹介します。

ユネスコスクール、ちょっとその前に

日本人は早くから義務教育で英語を習っていますが、外国人と英語で話せる人が少ないと言われます。その根底には、英語を知らないからではなく、話題を持ち合わせていないから、というのもあるかもしれません。

もちろん、謙遜が良し、言わぬが美徳、といった日本らしい背景もあるでしょうが、私のささやかな経験からは、欧米やアジア諸国と比べ、日本人は自身のことや故郷について話す内容をあまり持っていない、話す準備が出来ていないという面もありそうです。

「私の故郷はこういうところが魅力だ」と海外の方なら当たり前に語れる内容も、日本人はあまり語り慣れていない。日本人は本心を率直に語ることを避けがちなようです。それは控えめで相手を慮る良い文化でもありますが、一方で、外国の方の定住や労働が増えグローバル化する日本社会にあって、自分の気持ちをしっかり語るシーンはますます求められていくでしょう。

ユネスコスクールはそんな日本人に、これからの世代に必要な価値観やスキルをもたらしてくれる制度と言えます。

ユネスコスクールとは?

ユネスコスクールの制度は、参加スクールにユネスコの理念を実現するために、平和の実現や国際的な連携の実践を促す制度です。ユネスコが認定し、実際に取り組みを実践する学校間の国際ネットワークを指すことがポイント。そのネットワークに参加するのがユネスコスクール加盟校です。

ユネスコの理念はユネスコ憲章に基づいています。

第1条 目的及び任務
1  この機関の目的は、国際連合憲章が世界の諸人民に対して人種、性、言葉又は宗教の差別なく確認している正義、法の支配、 人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重を助長するために教育、科学及び文化を通じて諸国民の間の協力を促進することによって、平和及び安全に貢献することである。

出典:文部科学省「日本ユネスコ国内委員会」(http://www.mext.go.jp/unesco/004/1339976.htm)

つまり、ユネスコスクールの根底には「日本や世界の平和と安全に貢献する」という理念があります。

ユネスコスクールが目指すもの

その理念のもと、ユネスコスクールの目的は以下のように表明されています。そして、この目的を達成するために、ユネスコスクールの4つの教育理念が提供されています。

ユネスコスクールは、ユネスコの理念や目的を学校のあらゆる面(組織運営や授業、プロジェクト、経営方針など)に位置づけ、児童・生徒の「心の中に平和のとりでを築く」ことを目指しています。

出典:https://www.unesco-school.mext.go.jp/about-unesco-school/aspnet/

ユネスコスクールの理念〜4つの柱

ユネスコスクールでは、ユネスコが提唱する教育理念『学びの4本柱』があります。ユネスコスクールがネットワークであることは先に述べましたが、その国際的なネットワークを活かして、国内外の学校の生徒、教師が交流して学びや体験を共有したり、自身の地域の文化的、地理的特性や問題について考えたり対処できるような教育が行われます。

持続可能な開発のための教育(ESD)

ESD(Education for Sustainable Development)とは、人類が将来にわたって、地球や土地の豊かな恵みを享受できるように、以下の問題について、次の世代を担う若者が主体的に捉え、持続可能な社会を実現するために身近な行動をとれるようになる教育概念です。

  • 気候変動
  • 生物多様性の喪失
  • 資源の枯渇
  • 貧困の拡大等
  • 人類の開発活動に起因する現代社会 など
持続可能な開発のための教育(文部科学省)より


2015年に国連サミットで宣言され、2030年まで世界で取り組んでいく目標である『SDGs(持続可能な開発目標、Sustainable DevelopmentGoals)』でもベースとなる考えですが、次世代を担う子どもの教育の場であるユネスコスクールでは、これがまさに主題となるわけです。

こちらもご覧下さい。

ユネスコスクールのメリット

国内外のユネスコスクール校と交流する機会や研修会・ワークショップへ参加する機会が得られます。具体的には以下です。

  • 国内外の学校間交流・連携の活性化
  • ユネスコが主催する国際会議やプロジェクトへの参加
  • 教育実践に関する最新の教材や情報の入手
  • 国内のユネスコスクール対象の研修会等への参加
  • ユネスコスクールサポーターズからの活動支援や指導助言
  • 国内および国際的な加盟校専用ポータルサイトでの情報発信や交流
  • ユネスコスクールロゴの使用

ユネスコスクールは無料

国際バカロレアなどの制度とは違い、ユネスコスクールは加盟や加盟の維持にお金はかからず無料です。そのため、国内外で加盟校が広がっています。

こちらの記事もご参考下さい。

ユネスコスクール加盟校の状況

日本におけるユネスコスクール加盟校は2024年4月時点で1,088校。全国の多くの幼稚園、小中高等学校などがユネスコスクールに参加しています。

山梨県内での登録校は6校(2024年7月現在)

山梨県内での登録校は2024年7月現在、以下の6校です(キャンディデート校を含む)。

※「キャンディデート校」とはユネスコへ申請中(または申請準備中)の段階にある学校のことで、国内でのユネスコスクールのネットワークへの加入や活動が可能になる制度です。

小学校

中学校

高等学校

中高一貫校

具体的なユネスコスクールの取り組みのついて

ここからは具体的にどのような取り組みをしているのか、県内外の学校で取り組み例をご紹介します。山梨は国際化が遅れているとの声も聞かれますが、ユネスコスクールを活かして効果的にグローバルな教育を進めている学校がありますよ!

幼稚園・保育園での事例

これは山梨の事例ではありませんが、奈良の事例です。

奈良市立六条幼稚園で、日本ユネスコなどがユネスコスクールを対象にESDの活動の費用を助成する制度「ユネスコスクール SDGsアシストプロジェクト」に採用された幼稚園です。

葉の花(イメージ)

奈良市立六条幼稚園では、子どもたちが育てて絞ったなたね油を薬師寺や唐招提寺、元興寺の灯明の油として使ってもらい、受け継いできた地域の文化、消費伝統、持続可能な生産に取り組んでいます。

この助成期間(2019年4月~2020年2月)の報告によれば、以下の年間スケジュールで二期作で油を奉納したそうです。

菜の花プロジェクト 年間の流れ

5/21 幼稚園・薬師寺菜の花の刈り取り
6/14 菜の花の種落し、油搾り
7/ 8 薬師寺に油を奉納 (全園児親子)
8/23 元興寺に油を奉納
9/20  菜の花の種まき
10/24 幼稚園の菜の花を移植
10/31 薬師寺菜の花の移植 (5歳児親子)
10/31 唐招提寺に油の奉納 (4歳児親子)

「六条大好き! 奈良大好き!」https://www.unesco.or.jp/sdgs-assist/introduction/奈良市立六条幼稚園/
薬師寺

子どもたち以外にも地域住民や保護者、NPO関係者含め60名以上が参加し、菜種を育てるところからですので、子どもは人や大人と日々関わることになります。

子どもたちが大人といっしょに協力したり問題に直面してそれを解決する過程で、他者のことを考えたり、他者の考えを受けとめたり、あるいは自分の意見を主張したりするわけですが、それはまさに非認知能力が培かれる場と言えるかもしれませんね。

このような活動で子どもも変わったとか。お寺に油を奉納すると、子どもたちからは「こんなに昔のものがどうして今も残っているの?」と疑問を持ち、「大事にされてきたからなんだね」と気づく声も聞かれたようです。

子どもが自分で菜種油を収穫。地域の恵みを活かした消費伝統に自分で気が付く。そんな子どもの体験はユネスコスクールの理念の一つです。

小学校での事例

ユネスコスクール加盟校「南アルプス市立芦安小学校(山梨県)」は、「生物多様性」「 エコパーク」など環境面での取り組みを行っています。

芦安小学校が位置するのは南アルプスのふもと。南アルプスは2014年にユネスコエコパークに登録されており、固有で多様な動植物が生息します。北岳、仙丈ヶ岳など高山帯にはキタダケソウやライチョウなど希少な種が生息し、山麓では歴史の長い歌舞伎(大鹿農村歌舞伎)や里神楽、棚田など地形を生かした独特な稲作が営まれています。

(ユネスコエコパークについては以前の記事でも紹介しています↓)

そんな南アルプスの悠大な森林資源や清涼な水資源に恵まれた地域にある同校は、その土地の利を生かし、「自然環境の保護・保全」「持続可能な開発、持続可能なライフスタイル」のあり方を考えるための基礎的な能力を身につけることを目標に定めています。そのような自然資源に触れ、学年を超えた集団で能動的に関わることで、「感動する心」、「思いやりの心」「協力する心」「自律心」を育みます。

夜叉神峠(山梨県南アルプス市芦安)から望む白根三山(南アルプス)

具体的には、以下のような取り組みを数年にわたり続けています。

  • 芦安地区,特に学校周辺の身近な植物について知る。
  • 動植物に詳しい講師(芦安ファンクラブ)を呼び、学校周辺に自生する植物・樹木について調べたりして学び、そのあとに実際にその植物を探しにいく
  • 芦安地区に伝わる伝説や夜叉神峠にまつわる物語について先人から話を聞いたり調べたりする。
  • 登山道のゴミ拾いなど自然保護活動を行う
  • 白根御池小屋など実際の登山コースを行き、自ら最後まで困難をやり抜く心身を育てる
  • 高山帯の植生や大樺沢の雪渓をじかに観察する
  • 同じくエコパーク内にある伊奈ヶ湖伊奈周辺を散策し、シカなど動物の足跡などを観察し、動物の生態を学ぶ。エコパ伊奈ヶ湖のスタッフや観光推進課の講師の方の講習を受ける

このような取り組みは子どもが生まれ育った地域に愛着をもつきっかけとなり、またなぜこの自然が素晴らしいか、なぜ守らなければいけないか、どうすれば守れるか、と具体的に考えて発言できる力を育てます。

こちらも非認知能力を培う場にもなっており、子どもの育ちの観点から、とても意義深い取り組みと言えそうですね!

高校での事例

「英和」の呼称で親しまれる山梨の伝統校、山梨英和中学校・高等学校は2012年から現在までユネスコスクールに加盟しています。

中高とも英語教育や国際交流に取り組み、文化の多様性を尊重する姿勢を身につけることを重視しています。ボランティアや環境教育を通してESDに取り組んでいます。ユネスコスクール制度を通して、社会や他者、自然環境との『つながり』を尊重できる人を育てています。

具体的には、以下のテーマを持って取り組んでいます。

  • 生物多様性
  • 環境
  • 文化多様性
  • 国際理解
  • 平和
  • 人権
  • ジェンダー平等
  • 福祉
  • 持続可能な生産と消費
  • 貧困
  • エコパーク

たとえば、「平和」なら、中学の修学旅行(広島・京都コース),高校の修学旅行(「沖縄・長崎コース」、「韓国コース」)とその事前学習を通じて、原爆被害や沖縄地上戦の様子、長崎でのキリスト教伝来を巡る宣教師や信徒らの殉教の歴史、韓国の日本統治時代から現代までの歴史について学び、学んだことを班ごとに全校発表会にてプレゼンテーションしたそうです。

そのように歴史を事前学習と現地学習の両方の機会を得て、生徒が平和について深く考える機会を持つのが特徴ですね。


他にも英和は平和や国際理解の分野で多方面から取り組んでいます。

  • ウクライナ出身の学校の元講師を呼んで、ウクライナ戦争開始当初から現在までの様子を直接聞いたり、生徒会がウクライナ募金を甲府駅南口で呼びかけた。
  • 全校生徒で、ラオス等の子どもたちの修学支援を目的としたチャリティー「ウォーカソン(ウォーキングとマラソンを合わせた造語)」を実施。生徒が保護者や親せきの人たちなどとスポンサー契約し、英和のある愛宕山からスタートし、走った区間の契約金を寄付金としてタイやラオスの学校に通うのが難しい子どもたちに届けた。
  • 中学から高校にかけて複数回、英和が位置する甲武信ユネスコエコパークのことを学び、圏域内の自然資源を活かして地域活性化を図るアイデアを考えた。

このように、学校が持つ国際的なつながりや学校が所在する土地柄を活かして、平和、貧困、国際理解、人権、自然資源などのテーマで取り組んでいます。

甲府ユネスコについて

以上、山梨県内を中心にユネスコスクールの取り組みや特色をご紹介しました。

ちょうど先日(令和6年8月18日)、総合市民会館で甲府ユネスコ協会の活動報告会が開かれ、甲陵、巨摩、山梨英和の3高校の担当職員がSDGs達成に向けた自校生徒の取り組みを発表しました。

具体的には、純度の高いプラスティックからなるコンタクトレンズの空ケース回収や、適正な価格で生産物を取引するフェアトレードの商品販売などの活動が紹介され、また廣瀬も、甲府盆地の独特な地形やそのゆえの恩恵について紹介し、甲府盆地を中心としたエリアも自然公園「日本ジオパーク」に認定したいと訴えました(「甲府盆地をジオパークに!その地質的「魅力」をご紹介」)。

豊かな自然や安心できる社会環境は、ユネスコの理念である「平和な社会」を築いていく上で土台となります。甲府、山梨の地域文化や自然を次世代へつなげていくために甲府ユネスコ協会にできることは何か?会長に就いてからそんなことを廣瀬は考えてきましたが、その答えの一つが「甲府盆地を中心としたエリアをジオパークに!」でした。

甲府ユネスコ協会の基本方針と3つのPoliciy

甲府ユネスコ協会は1948年に設立され、76年間の歴史が刻まれています。

① U-Smile ~みんなでつなぐ

② ユネスコスクール

③ 甲府盆地をジォパークに

の3つのPoliciyがあります。

具体的には、日本ユネスコ協会連盟は「U-Smile〜みんなでつなぐ子ども応援プログラム」で、困難な状況に置かれている子供たちが夢や希望を持てる社会になることを目指しています。ユネスコの理念でもある平和と人間の尊重、友愛などの理想に一歩でも近づけるように、甲府ユネスコ協会でもユネスコスクールの普及を進めていきます。

日本の真ん中に位置しハート型をしている「甲府盆地」をジオパークに登録する活動をスタートさせ、教育や観光など持続可能なプログラムを進めていきたい。具体的に進めるために、ちょうど中核都市「甲府」が中心となって立ち上げられた県央ネットやまなし(やまなし県央連携中枢都市圏)へも、このアイディアを働きかけていきたいと考えています。

県央ネットやまなし(やまなし県央連携中枢都市圏)↓

県央ネットやまなし 観光エリアHP↓

参考情報

ユネスコ憲章

戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない。

ユネスコ会員綱領

世界の平和と人類の幸福を永遠なものにすることは、ユネスコの理想である。これは人間の知的、徳義的連帯の上にのみ築かれるものである。

われわれは、この理想を実現するためにユネスコ会員綱領を定め、日常の規範としてこれを守ることを誓う。

1、心の中に平和の守りを固めよう

戦争は人の心の中で始まるものであるから、闘いを力で解決しようとする考えをすて、すべての人が心の中で平和を守ろうとする決意を持たなければならない。

1、すべての人間の尊厳を重んじよう

人間の尊厳と平等を重んじ、相互に尊重しあうという民主主義の原則にあたって、自由と人権を尊重する習慣を日常生活において守り育てることがたいせつである。

1、教育、科学、文化の発展に努めよう

教育、科学、文化は、人々のしあわせと豊かな生活をささえるものであるから、その向上と普及に努めなければならない。

1、民族間の疑惑と不信をのぞこう

闘いをなくし真の平和を永続させるためには、互いの生活と風俗習慣を知り合い民族間の疑惑と不信をのぞくことが必要である。

1、世界を友愛と信頼のきずなで結ぼう

世界の繁栄と人類の福祉を増進するためには、互いの友愛と信頼のきずなで結ばれ、人類は皆兄弟という心構えで助け合い、共存共栄の道を進むべきである。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう