都会から甲府へ〜「地方都市へ移住」という選択

2020年8月4日

地方移住が最近増えてるみたい!

家族での移住、単身での移住など、今の地方移住にはいろいろな形がありそう

最近、新型コロナの影響もあり、東京に隣接した山梨県への移住を検討する人が増加しているそう(「山梨へ移住 相談活況」山梨日日新聞2020年6月29日)。そこで、甲府市の移住定住係のこうふコンシェルジュ成澤さんに、地方移住の今をお聞きしました。

甲府市の移住定住係へインタビューに伺いました

新型コロナで移住相談は増えてますか?

新型コロナ対策でアクリル板越しに対応いただいた成澤さん

コロナの影響で東京など都市部から隣接する山梨県への移住を検討する人が増えていると聞きます。こちらでの移住相談は増えてますか?

成澤さん

「たとえば数年前から移住定住係に相談されていた方が在宅勤務になったのをきっかけに甲府に住み始めたケースがあります。移住定住係では移住を考える方へ生活情報を積極的に発信しています。ただ、不動産の斡旋はできませんので、不動産屋さんへ直接相談にいくケースも多くなっていると聞きます。甲府は東京と隣接することもあり、仕事は変えずに地方移住を実現しやすいのが強みのようです」

たしかに、WEBなどで物件をチェックして不動産屋さんへ直接行くのが一般的かも。甲府への移住をよりスムーズに検討できるように、甲府市としては情報発信を積極的に進めているとのことです。

新型コロナの影響は地方移住にも出ていますか?

成澤さん

「お店の経営者が山梨に移転してくるケースもあります。密になれないのでお店を運営して、さらにキープディスタンスを守り、となると利益を得るためには広さも必要になります。そうなると敷地の坪単価が高い東京よりも、坪単価の安い甲府で広いエリアのショップを構えて利益率を確保するほうが、商売としてはメリットがある。ここへきて、地方の空間が大変価値のあるものになりました」

なるほど、店舗経営の方が地方へ軸足を移そうとする動きも始まっているということですね。新型コロナをどう乗り越えていくか。そこに、地方ならではの利点が活かされ始めているようです。

地方移住の最近の傾向

地方移住と聞くとリタイア後のセカンドライフのイメージが強いですが、最近は若い方の地方移住も増えているのでしょうか?また、移住する際に、住居を買うか賃貸かなどの傾向も教えてください。

成澤さん

「若い家族や単身の移住も増えていますね。単身は男性も女性も多いです。住居はアパート・マンションなどさまざまです。賃貸物件を借りる人が多いです。甲府の駅前のマンションに入る方もいます。自然を求めるけれど、これまでの暮らし方をそれほど変えたくないのかもしれません」

移住される方は新しい仕事を決めてからの移住ですか?それとも、仕事が決まる前に移住されますか?

成澤さん

「『とりあえず移住』という方もいらっしゃいますが、まずはお仕事を見つけてからとアドバイスしています。また、どんなタイミングで移住すればいいかわからない、移住したいけれどきっかけがないという人もいるので、就職活動をして新しい会社へ入社するときの移住をオススメしています。移住してから、就職したいのに見つからない!といっては生活できませんから。移住はあくまでもきっかけ。人間は生きていかなければいけません。
実際40代、50代、60代となると、なかなか都会で働いていたような条件では就職先がないのも現実です。仕事がありますよ、いい条件の就職先がありますよ、とこちらから気軽には言えませんが、話し合っていくうちに、移住相談者のワークライフバランスが見えてきたり、仕事に対して求めるものや家族が大切にしたいことが再認識できたりと、賃金などの条件だけが全てではないことに気づいてくださり、就職移住が成功につながることもあります。移住で仕事の業種を変える方も多いですね」

移住相談のアドバイスについて

成澤さんは甲府への移住に関する情報を広く発信されていますが、実際に移住検討者へどのようにアドバイスされているか教えてください。

成澤さん

甲府市が移住相談者用に用意しているパンフレット

成澤さん

「都会の生活から地方の生活へ、仕事と暮らしがどう変わるのか、具体的にイメージできるように工夫しています。この『甲府の暮らし応援マップ』と『移住ノート』もそんな想いから作ったものです。『甲府の暮らし応援マップ』で甲府で暮らすことを地図や地形からイメージしてもらい、『移住ノート』で移住を検討している人が今の生活を大きく変えてまで甲府での生活を選ぶ理由をもう一度整理できるようにしています。

何よりも本人の気持ちをまとめる、家族のなかでのバランスをとることが重要なんです。なのにどの市町村も素晴らしい自然環境があって子育てがしやすいっていうことをPRしているところだらけなんです。

『ちょうどいい』は人によって違うのに、移住のチラシはいいことばかりが書かれているものが多い。実際、移住してしまった後に肌で感じるものが違うといった声を耳にします。ですので、自分で移住をつかみ取ってほしいのでこうしたものを移住相談に来られる方みなさんにお渡ししています

『甲府の暮らし応援マップ』の裏には「甲府で暮らすなら知っておきたい17のこと」が載っていて、移住検討者が甲府での暮らしをイメージできるように工夫されています。「お通夜・告別式共に参列する人はお香典とお焼香をするだけですぐ終わる」、「いちやまとイッツモアの違い」など、地元のことがよく分かる。

これは甲府出身の筆者が見ても面白い!

このマップを開くと、一目で甲府市を見渡せる仕組みになっています。どこにバス停があるか、川はどう流れているかが分かりやすく、これなら甲府に土地勘のない人でもどのあたりに住まいを探せばいいか、生活面や防災面からも検討しやすいでしょう。

見開きマップ

移住ノートは下のリンクからダウンロード可能です。ご興味のある方はぜひご覧ください。

成澤さん

「たとえば、ご夫婦で旦那さんが田舎暮らしで農業をしたい、奧さんは地方移住は同意したものの子育てもあるため、ある程度便利さを望むというケースの場合、お二人の希望を両立できる場所はどこか(農業ができて、利便性もある場所はどこか)、このマップを使いながらアドバイスさせていただきます。意見の違いもそれぞれに移住ノートに書き込んでもらい、思いを共有してもらっています」

成澤さん

「移住って人生ですから。変えたいこともあるし、変えたくないこともあります。東京の暮らしをスライドできる要素が甲府移住の強みですが、それでもそのままスライドできるというわけではありません。移住ノートは本人たちに移住の目的をもう一度整理してもらうために作ったものです。

ノートの中に『優先順位』というページがあるのですが、『自然の中で暮らしたいから』をはじめは1位にしていても、移住ノートに書き込んでもらってから話し合ううちに、本当は子育てに悩んでいたり、仕事に悩んでいたりして、移住希望のほんとうの理由に気づくこともあります。

この窓口で希望を現実するための具体的なことを一緒に考えることで、移住に対して持っている漠然としたイメージと、移住でほんとうに実現したいことの違いが見えてくることがあります。その『ほんとうに実現したいこと』を大事にしてもらいたいんです。東京の暮らしをスライドできる甲府の良さももちろんしっかりと伝えますが、甲府ならではのデメリット、東京の生活との違いも伝えて、移住者に移住の具体的なイメージを作ってもらうように意識しています」

※現在は、新型コロナ感染対策のため、ズームでの相談がおもとなります。

移住者コラムで移住の実際を伝える

ホームページの移住者コラムをとても面白く拝見しました。移住者にインタビューして質問に答えてもらう形はよく見ますが、移住者自らがレポーターになって移住の日常を伝えるのは斬新ですね。移住のいいことも悪いことをざっくばらんに書かれていて、地方移住のリアルがそこにありました。

成澤さん

「インタビュー形式だと、どうしてもいいことが多くなってしまい、キラキラしすぎてしまうというか。そこに、本人の本当の葛藤とか、憤りとか、移住前との温度感の変化とかってあると思うんですが、インタビューではなかなか引き出しづらいというか。そのインタビューを読んで、こんなにいい暮らしなんだと早合点させてしまうのも、移住定住係の本意ではないですし。

それで、自由になんでも書いてもらおうと思って、あのコラムを企画しました。ご本人に了解を得た上で、好きなタイミングで好きな分量で好きな内容を、移住者本人に書いてもらっています。『毎日書かなくていいです、一ヶ月に一度でも、一年に数回でもいいですから、移住後の生活を書いてください』とお願いしました。そういう本人からの生の声が、地方移住を検討している人たちに伝わるといいなと思っています」

移住の情報を様々な形で発信される成澤さん。経歴をお聞きすると、20代は地元紙の記者、ディレクターをされていたそう。HPでは相談者に必要な情報が伝わりやすくシンプルに整備されいる印象を受けましたが、それも伝える仕事をしていたからこそでしょうか

移住後

移住してから、イメージと違った、こんなんじゃなかった、というケースもありますか?

成澤さん

「もちろん、生活するうちに事情が変わって都会へ戻られるケースもあります。その方の生活、人生ですから、それは想定できない部分もありますね。ただ、移住定住係に相談に来ていただく方には、移住前のイメージと移住後の現実にギャップがないようにアドバイスさせていただくことを大事にしています。いいことだけPRするのではなく、様々なパターンを話します。単にイメージが違った、こんなんじゃなかったというケースは少ないと思います。せっかく甲府に移住していただくからには、永く住んでもらいたいですからね」

市町村によっては、組に入っていないため移住者が近所の収集所にゴミ出しできないことが報道されることがあります。甲府市でも同じ状況は起きていますか?

成澤さん

そのような話は聞いていません。ただ、地域は地域にすむ人たちが作ってきた生活環境を使わせてもらうという面もありますので、できれば地元の人たちといい関係を築かれて、組や地元の集会に参加された方が移住生活もスムーズになるかとは思います。地域を楽しんだらいいと思うのです。地域での担いの負担ばかりクローズアップされますが、自然災害の時に助けてくれるのは地域の人だよ、といったような話をまぜながら地域に入ることがどういうことかも説明しています

たとえば北杜市と比べた場合、甲府市への地方移住と北杜市への地方移住では意味合いが違う気がします。北杜市への移住は、田舎暮らしの実現、夢を叶える、というイメージが強いですが、甲府への移住はどんな意味合いが強いのでしょうか?

成澤さん

「甲府への移住は、東京の生活のスライドとプラスゆとりです。暮らしぶりがそこまで変わらないのが甲府への移住のメリットです。生活は便利なまま空は広くなる、山が近くなり、土日でも北杜市や長野、富士山など観光地に渋滞なしで手軽にいける、というイメージですかね。だから若い人の移住が多いんだと思います」

リニアと甲府移住

リニアで甲府への移住シーンはどう変わっていくとお考えですか?

成澤さん

「変わる部分はいろいろあると思いますが、『変わらない部分』が気になってます。ただ単に人口増加を見込むのではなく、地域の魅力を再発見して、地域を作っていくことが大切というのは変わらないでしょう。中道などリニアの駅からアクセスもよく、東京ではなかなか見られない風光明媚な甲府が魅力となって、地域社会が広がっていくといいです」

以上、甲府市、移住定住係へのインタビューでした。成澤さん、ありがとうございました。

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