こども家庭庁が2023年4月発足しました。子どもの減少割合は10年ごとに倍増加しつづけており、日本の少子化対策はここ6〜7年がラストチャンスと言われています。「異次元の少子化対策」とも言われる新しい施策の内容や予算規模について解説します。
この記事の目次
こども家庭庁とは?設立経緯は?
こども家庭庁は、子どもを取り巻く問題に対して、素早く本質的な対策を講じるために設置された内閣府の外局組織です。
子どもを取り巻く問題は少子化問題や児童虐待、いじめ、不登校、ヤングケアラー、貧困、母子保健など多岐に及びます。
そのような背景の中、子どもが等しく健やかに成長できる社会を実現するため、家庭福祉、保健向上、子育て支援などに係わる政策を実現していくのが「こども家庭庁」の目的です。
令和3年9月、「こども制作の推進に係わる有識者会議」が開かれ、その政策の方向性について検討され、有識者会議報告書がまとめられ、その後『こども政策の新たな推進体制に関する基本方針』がまとめられました。
2022年6月、国会にて「こども家庭庁設置法」、「こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」「こども基本法」が成立し、2023年4月1日にこども家庭庁が発足しました。
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ここ6〜7年がラストチャンス
子どもの減少割合は10年ごとに倍以上に増加し続けており、出生数の減少は歯止めが利かない状況です。
そのため、この6〜7年が少子化傾向を反転できるかどうかの瀬戸際と言われています。政府は「次元の異なる少子化対策」という表現で少子化対策の案をまとめました。
出典:「こども・子育て政策の強化について(試案)」(内閣府) (https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/dai1/siryou5-1.pdf)(2023年5月に利用)
どのように異次元か?
「異次元」という言葉が使われていても、その施策内容を見てみると、少子化対策・子どもの権利が進む欧米から見るとすでに実施している施策も見られます。それでも、これまでの日本の政策観点からは『異次元』と言えそうです。
こども家庭庁が打ち出している方針は以下です。
出典:「こども・子育て政策の強化について(試案)」(内閣府) (https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_mirai/dai1/siryou5-1.pdf)(2023年5月に利用)
つまり、「異次元の少子化対策」のたたき台は、①「若い世代の所得増加」、②「働きながら子育てしやすい社会づくり」、③「経済支援・子育てサービスの充実」の3本柱です。
日本では、未婚者の9割近くが「いずれ結婚するつもり」と回答しているのに、収入が不安定な男性は結婚相手として選ばれにくい傾向にあります。その理由として「稼ぐのは男性」という昔ながらの価値観があったり、現実的に女性が経済的に自立しにくい社会背景があります。
上の基本理念の②に書かれている「共働き・共育ての推進」「こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革」は、そのような背景から出てきたものです。
まだ案ですが、以下のような3年プランが計画されています。
注目されているのが、『児童手当の支給条件(所得制限)撤廃と増額』です。
現在の児童手当は、一定の所得制限の下で中学生まで月あたり原則10,000〜15,000円が支給されます。少子化対策を具体的にどのように進めるかを盛り込んだ「こども未来戦略方針」では、年間3兆円台半ばの予算ををかけて、
■児童手当の所得制限を撤廃
■対象は高校生までに拡大
■3歳未満は1人月額1万5000円、3歳から高校生まで月額1万円
■第3子以降は高校生まで年齢にかかわらず3万円に増額
することが決まっています。
このような経済支援はたしかに子どもを産み育てる動機となりえますが、一方で現金給付よりも社会整備、子育て世代が働きながら子育てしやすい環境を作ってほしいという声が多いのも事実です。『物価や税金が上がったら、児童手当の増額はその補填分で消えてしまう』『児童手当が上がっても税金が上がると意味がない』などの声があります。
また、年間数兆円単位の財源(詳細は次の章に記載)が必要になると言われます。この財源をどこに求めるか?それが議論の焦点です。財源の出処によっては、増税などの形で結局は子育て世代に返ってくることにもなりかねないためです。
財源は?
異次元の少子化対策の財源を長期にわたり確保していけるかは、いまだ不透明な部分がありますが、検討されているのが以下です。
- 税金
- 社会保険料
- 国債発行
- 教育国債(野党の意見)
政府内では教育国債や増税を財源とすることに慎重な意見が出ています。年金や介護、雇用、医療保険などいわゆる社会保険料の拠出や見直しで財源を生み出すべきという意見もあります。
少子化対策のための施策(児童手当の拡充など)には、今後3年で年間3兆円以上の予算が必要ですが、財源の一部に社会保険が使われる予定で、社会全体で負担していく形で調整が進められています。
こども家庭庁が新たに新設する支援のイメージ
こども政策は国の未来への投資として最重要の柱と位置づけ、以下のように妊娠・乳幼児期から高校・大学、結婚支援までを切れ目のない包括的な支援を整備していきます。
しかし『切れ目のない包括的な支援』とあっても、このプランには『幼保』と『小学校』の間に切れ目があるのではないでしょうか。子どもにとっての、そして親にとっての切れ目です(上の図の赤枠部分)。
『幼保』と『小学校』の間に子どもにとっての大きな切れ目がある
義務教育が開始する小学校に入学するタイミングで子どものための支援が一旦途切れます。子どもの受け入れ機関の態勢(姿勢)が変わるからです。
幼保(幼児保育)では『その子どもの良さ』『その子どもができること』を見つけます。健常児や障害を持った子、発達障害の子に対し、『こんなことができたよ』『ここまでできるようになったよ』と、この子が何ができるかを発見していきます。
一方の小学校では、『この子は何ができますか?』ではなく『この子は何が課題ですか?』の視点に変わります。
カリキュラムに子どもが当てはめらるという側面がどうしても強まる義務教育ではしかたないかもしれません。しかし、それは子どもの視点に立ったものではありません。『何ができたか?』でなく『何ができなかったか?』がやみくもに押しつけられれば、子どもが『学校が面白くない』と感じたり、落ちこぼれてしまう原因にもなりかねないと廣瀬は考えます。
そのような背景もあって、自治体で以前より進めれているのが『幼保小の架け橋プログラム』です。
幼保小の架け橋プログラムは、義務教育が開始する前後、小学校に入学して間もない時期に、適切な学び、地域・社会とのつながりを提供しようとするものです。一人一人の多様性を大切にし、主体的で対話的な関わりを通して、深い学びを経験し、その子の生活基盤や将来の主体性を育む目的があります。
幼保小の架け橋プログラムについては、『横浜市こども青少年局』の解説イラストがとても分かりやすいので、ここに許可を得て掲載します▼
横浜市は、文部科学省の『幼保小の架け橋プログラム』モデル地域として調査研究を精力的に進めています。
幼児期は、生涯にわたる人格形成や幸福感の土壌を培う重要な時期であり、幼児期の遊びや学び、大人との関わりを通して芽生えた意識や意欲を、小学校以降に更に伸ばしていくことが必要です。生活の基盤や生涯にわたる学びの土壌を育てるには、幼保と小学校の安心できる架け橋を大人が用意することが大事です。
現在、発達障害の子どもが増えています。学校になじめない子も多く、昔は皆勤賞が取り沙汰され、学校に行きたくなくても、いかないといけない雰囲気や圧力がありました。今は昔ほどそうではなく、具合悪かったら休んでいい、行きたくなければ行かなくていい、という時代です。新しい価値観が受け入れられつつあるのです。それは時代の変化ですが、その変化はコロナによってさらに後押しされました。
新しい考えや個性、多様性を受容しつつ、子どもの育ちを支えることが今求められています。そのためには、放課後児童クラブを活用した12年間の子育て支援も必要ではないでしょうか?
12年の子育て支援とは、その子が生まれて小学校を卒業するまでの12年間を、通ったこども園(または、保育園、幼稚園)をホームベースにして、気軽に立ち寄れる場、気持ちの拠り所として、地域の大人を頼ったり、下の子と遊んだりできる場の提供です。子どもの養育に地域のコミュニティが果たす役割は非常に大きいのですが、放課後児童クラブをうまく活用すれば、それが自然と促されるのではないでしょうか。
廣瀬は、放課後を、学校でもない、家庭でもない大切な時間と捉え、12年間の子育て支援を標榜し、30数年前に副園長として勤務する保育園に学童クラブ(現在の『放課後児童クラブ』)を立ち上げました。自然体験とモノづくりを中心に活動する放課後や長期休暇中の時間は、子どもたちの成長の中で、人間関係を育て、様々な経験を積んで、学校生活を中心にした毎日をさらに充実したものにしてくれています。
放課後児童クラブは、子ども達の幼保時代と小学校を繋ぐ大きな役割を果たしているのだと日々感じています。
時代は常に変わります。新しい価値観を受容し、地域で子どもを育てる仕組みが求められています。
予算の内訳について
2023年7月現在の資料によると、予算の具体的な内訳は以下です。
※金額は、令和5年度当初予算案と令和4年度第2次補正予算の合計(括弧内は令和4年度第2次補正予算)
地域の実情や課題に応じた少子化対策(地域少子化対策重点推進交付金) ・・・10億円(8.2億円)
2021年の出生数は過去最少の約81万人(※1)となり、少子化は予想を上回るペースで進む極めて危機的な状況にあることから、「少子化社会対策大綱」(令和2年 5月29日閣議決定)に基づき、「地方公共団体が行う、出会いの機会・場の提供、結婚に関する相談・支援や支援者の養成、ライフプランニング支援、官民が連 携した結婚支援の取組などの総合的な結婚支援の取組」及び「婚姻の状況等も踏まえ、地方公共団体が実施する新婚世帯の新生活のスタートアップ支援に係 る取組」について、地域の実情に応じたきめ細かな取組を一層強化する必要があります。
また、「経済財政運営と改革の基本方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)(※2)においても、「結婚新生活立上げ時の経済的負担の軽減や出会いの機会・場の提 供など地方自治体による結婚支援の取組に対する支援・・・に取り組む」とされています。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/r5_yosanan_point.pdf
これを踏まえ、地域少子化対策重点推進交付金により、自治体が行う「結婚に対する取組」及び「結婚、妊娠・出産、子育てに温かい社会づくり・機運の醸成の 取組」を支援するとともに、結婚に伴う新生活のスタートアップに係るコストを軽減するための結婚新生活支援事業(新婚世帯を対象に家賃、引越費用等を補助) を支援します。
※1:2022年の出生数は79万9728人で、初めて80万人を下回った。
※2:令和5年6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針2023 加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」(骨太方針2023)が閣議決定された。その中で、「こども未来戦略方針」~ 次元の異なる少子化対策の実現のための 「こども未来戦略」の策定に向けて ~が令和5年6月 13 日に策定し、今後の政府の子育て方針を決めました。こども未来戦略は、子育ての処遇改善や配置基準など予算の根拠となる重要な方針です。
出産・子育て応援交付金・・・370億円
核家族化が進み、地域のつながりも希薄となる中で、孤立感や不安感を抱く妊婦・子育て家庭も少なくない。全ての妊婦・子育て家庭が安心して出産・子育てがで きる環境整備が喫緊の課題である。
こうした中で、地方自治体の創意工夫により、妊娠期から出産・子育てまで一貫して身近で相談に応じ、様々なニーズに即した必要な支援につなぐ伴走型の相談支 援を充実し、経済的支援を一体として実施する事業を支援する。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/r5_yosanan_point.pdf
産後ケア事業(妊娠・出産包括支援事業の一部)・・・57.2億円(44.4億円)
退院直後の母子に対して心身のケアや育児のサポート等を行い、産後も安心して子育てができる支援体制の確保を行う産後ケア事業について、少子化の 状況を踏まえ、誰もがより安心・安全な子育て環境を整えるため、法定化により市町村の努力義務となった当事業の全国展開を図る。子育て世代包括支 援センターにおける困難事例や、新型コロナウイルスに対して不安を抱いている妊産婦等への対応の強化に対する受け皿としても活用する。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/r5_yosanan_point.pdf
※ 従来予算事業として実施されてきた「産後ケア事業」は、母子保健法の一部を改正する法律(令和元年法律第69号)により、市町村の努力義務として規定された(令和 3年4月1日施行)
※ 少子化社会対策大綱(令和2年5月29日閣議決定)において、 2024年度末までの全国展開を目指すとされている。
低所得の妊婦に対する初回産科受診料支援事業・・・1.3億円
低所得の妊婦の経済的負担軽減を図るとともに、当該妊婦の状況を継続的に把握し、必要な支援につなげるため、初回の産科受診料の費用 を助成する。なお、本事業については、今般新たに創設された伴走型相談支援事業と一体的に実施することにより、両事業の効果的な取組を進 めることとする。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/r5_yosanan_point.pdf
子どものための教育・保育給付交付金・・・1兆5,948億円(1兆4,918億円)
子ども・子育て支援法に基づき、市町村が支給する施設型給付費等の支給に要する費用の一部を負担することにより、子どもが健やかに成長するように支援すること を目的とする。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/r5_yosanan_point.pdf
教育・保育給付認定を受けた小学校就学前の子どもが、幼稚園、保育所、認定こども園、地域型保育事業(小規模保育事業、家庭的保育事業等)を利用する際に 施設型給付費等を支給する市町村に対し、支給に必要な費用の一部を負担するため交付金を交付する。
保育体制強化事業・・・457億円(453億円)
清掃業務や遊具の消毒、給食の配膳、寝具の用意、片付け、外国人の児童の保護者とのやりとりに係る通訳や、園外活動時の見守り等
といった保育に係る周辺業務を行う者(保育支援者)の配置の支援を行い、保育士の業務負担の軽減を図る。普段、保育所や幼稚園等を利用していない未就園児を、保育所等で定期的に預かることで、専門家による良質な成育環境を確保し、他児とともに過
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/r5_yosanan_point.pdf
ごし遊ぶ経験を通じこどもたちの発達を促すだけでなく、育児疲れによる負担を抱える保護者に対する継続的な支援や、必要に応じて関係機関と連携
した支援を行うことができる。ついては、定員に空きのある保育所等において、未就園児を定期的に預かり、利用促進の方法、利用認定の方法、要支
援家庭等の確認方法や、保護者に対する関わり方などを具体的に検討し、保育所の多機能化に向けた効果を検証するモデル事業を実施する。
就学前教育・保育施設整備交付金・・・295億円
市区町村が策定する整備計画等に基づき、保育所、認定こども園及び小規模保育事業所等に係る施設整備事業及び防音壁設置の実施等
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/r5_yosanan_point.pdf
に要する経費に充てるため、市区町村等に交付金を交付する。
未就園児等全戶訪問・アウトリーチ支援事業・・・208億円(202億円)
「児童虐待防止対策の強化に向けた緊急総合対策」に基づき、地域とつながりのない未就園(保育所、幼稚園、認定こども園等へ
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/r5_yosanan_point.pdf
入所・入園等をしていない)のこどもを対象として家庭を訪問する取組を実施しており、児童虐待の早期発見・早期対応を推進する
ため、継続的に訪問する取組を支援する。
○ こども家庭庁の創設により、未就園児も含めた小学校修了前の全てのこどもの育ちを保障する取組を強化するため、訪問により把握 した児童・家庭に対し、地域のNPOや児童委員、子育て支援員等の⺠間関係者・団体を活用しながら、児童・家庭の困りごとを把握し、 申請手続等の支援も含め円滑かつ確実に支援・サービスに結びつけていくための自治体の取組を支援する。
いじめ防止対策関係予算(こども家庭庁・文部科学省)・・・88億円(80億円)
いじめを政府全体の問題として捉え直し、 令和4年11月に設置された「いじめ防止対策に関する 関係府省連絡会議」の下、関係府省間の連携を強化。文部科学省は教育委員会-学校を通じた 対策の充実を図り、こども家庭庁は新たに学校外からの対策を講じ、社会全体でのいじめ防止 対策を一体的に推進。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_seisaku_suishin/pdf/r5_yosanan_point.pdf
以上、『こども家庭庁 発足〜具体的にどのように進めるか?予算配分など』でした。
施策には財源が必要となりますが、少子化対策・子育て支援は経済効果をすぐに見込めない将来への投資です。経済社会優先で後回しになってきたのが『少子化問題』『子どもの養育問題』であるなら、その経済の実りを潤沢に子どもが健全に育つ環境づくりに充てるべきでしょう。