2019年11月28日、29日に、甲府・湯村温泉の甲府記念日ホテルにて、「第10回子ども・子育て支援全国研究大会2019in山梨」が開催されました。今回はその様子をご紹介します。
この記事の目次
子ども・子育て支援全国研究大会とは?
『子ども・子育て支援全国研究大会』とは、内閣府・厚生労働省・文部科学省などが後援する全国規模の大会で、日本の子育て支援の課題やこれからについて、全国の保育士や保健師、教育関係者、研究者が一同に会して、情報共有・研究・協議する場です。
ひろせ議員は大会実行委員長として今回の大会に中心的に関わりました。
詳しいプログラムは大会パンフレットからご覧いただけます。
今回の大会の特徴
これまでの子ども・子育て支援全国研究大会は、民間保育所などが運営する子育て支援センター関係者が中心でしたが、今回の大会では「保育所、幼稚園、認定こども園、子育てNPO、養護・療育関係者、森のようちえん、養成学校」などの子育て支援の関係者が参加・議論し、『地域の子育て基盤づくり』につながるようにと企画されました。
語り場から始まる子育てプラットホームづくり
1日目は、大会テーマでもある『語り場からはじまる子育てプラットフォームづくり』を議題に、子育て支援に関わる現場の方と専門家が一緒に語り合う場(パネルディスカッション)が設けられました。
子育て支援の現場の方や専門家がパネラーとなり、前半ではパネラーの意見や事例の紹介、後半では参加者にあらかじめ配られた付箋で集めた意見を下地に会場みんなで語り合いを行い、子育て支援関係者の連携の在り方や課題が進みます。
参加者リスト
コーディネーター 柏女 霊峰 氏(淑徳大学総合福祉学部教授)
パネリスト 明和 政子 氏(京都大学大学院教育学研究科教授)
中川 浩一 氏(山口県子育て支援センター連絡会会長/勝山保育園園長)
星合 深妃 氏(認定NPO法人HappySpaceゆうゆうゆう理事長)
総合司会 矢巻 行祥 氏(社会福祉法人ゆうゆうゆう理事長)
そんなパネルディスカッションで印象的だったのは、笛吹市で子育て支援施設Happy Spaceを運営し、今大会の実行委員でもある星合深妃氏の「国の子育て支援は施策は出尽くした、これからは地域の社会資源の発掘と連携、アイディア次第で新しい取り組みができる」というコメント。これからは、その地域の特性や文化を生かし、子育て支援施設により多くの機能(利用者支援や一時預かり、ファミリーサポートなど)を持たせていける、それにより魅力的な子育て支援ができてくる、ということ。現場での取り組みを進めてきて感じたのは、子育てで困難に直面している親に対して、「ゆるくつながり」、「メンバーからの要請をみんなが認めて」、「強制しない」応援のスタンスだったといいます。
また、脳科学の観点からも、子供の健全な発達には愛情をもって接してくれる特定の人間が必要であること、人間は集団で共同保育しなければ子育てできない生物であること、などが説明されました。
後半の議論も含め、出されたトピックは以下。
- 1.57ショック(1.57ショック:1989年に、合計特殊出生率が過去最低の1.57に低下し、過去最低を更新した事態で、これにより国や市町村の少子化対策が始まった)の後、さまざまな少子化対策が実施されてきたが、今も出生率は今も低迷している。子育て支援の視点からこれからやるべきことはなにか。
- 昨今ニュースになっている児童虐待について、子育て支援関係者や社会福祉法人、行政がどのように連携をしていくべきか。
- 子供から高齢者までが一緒にいる長屋プロジェクトの可能性
- つどいの広場・・・地域のサークルやママ集まりの代表が月に一度集まって会合を行っている。お互いの近況報告するだけだけど、情報共有できる。
- 市が行う前に、自分たちで子供の定期検診を始めた。
- 埼玉、川越市には、27の子育て支援施設がある。以前は親が来ておもちゃで遊ぶだけだったが、それだけじゃ皆来ないということで、来ている子たちの名簿を作って、その子たちの誕生日にカードをあげたり、歯医者さんの講習会を開催したり、ママヨガをしたりと工夫した。すると、ママたちが来てくれるようになった。ママに聞き取りして、どんなことしてほしいか聞き、それに基づいて月のカリキュラム(ママヨガ月2回、歯医者さんや看護師さんの講演会、園庭遊びなど)を書いて渡したら、すごい人数が来てくれるようになった。
- 群馬の「なんでも相談」の事例。通常、社会福祉法人は児童だけだったり、高齢者だけだったりと、1つの社会福祉法人が1つの社会福祉事業をやってるのが一般的だが、社会法人同士が連携してひとつのネットワークを作り、違う分野の相談が来ても連携して対応できる体制、「断らない相談ネットワーク作り」を整えている。実際の社会福祉は繋がっており、切れ目のない支援が大切。
- 人間にとって一番大事な時期を担うのが皆さん(大会参会者)。しかし、保育士や社会福祉の仕事に携わる人たちへの認識や処遇が低い。北欧では博士号を取った保育士が40%以上。科学的なエビデンスに基づいて、教育する必要がある。
- ようやく子育て関係の拠点間のネットワークができようとしている時に、一歩先を行く、高齢者も含めた全体のネットワークが進むと、子育てのほうが虫食い状態になってしまうのではないか。高齢者の方は進んでるけど、子育て関係の拠点のネットワークが停滞していまくのではないか、と一定の懸念を持っている関係者もいる。
2日目、早朝セミナーでは全国でどんな子育て支援の取り組みが行われているかについていくつか発表がありましたので、ここでは、その中で甲府市のケースをご紹介します。
甲府市の子育て支援の新しい取り組み〜マイ保健師と地域の子育て支援施設が連携
甲府市の場合、保健師は一人で80人程度の児童を受け持ち、健康診断、保健指導、生活環境の把握などを行っています。そんな数多くの児童を担当する保健師がより効率的に児童の様子を把握できるように、「市内19ヶ所の子育て支援センター・幼児教育センター・つどいの広場などの子育て支援施設」と「甲府市の保健師」が連携。マイ保健師制度で、ケアが必要な子供の発見や支援などきめ細かい子育ての連携を甲府市は行っています。
早朝セミナーでは、甲府市支援センター連絡会の斎藤智子さんが、甲府市のそんな新しい取り組みについて報告しました。内容は以下。
まず、甲府市が進める子育て世代包括支援センターが目指すものは以下。
- 安心して出産、子育てができる環境作り
- 妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援の充実
- 関係機関・団体と連携して包括的な支援体制を作り、チーム甲府市として子育て支援を実施。
子育て支援センターなどのネットワークにより、保健師さんがきめ細かく児童の生活環境の把握などができるようになっているとのことでした。一例ですが、これにより児童虐待など問題ある子はいち早くマイ保健師さんによって把握されるようになっています。
では、具体的に、マイ保健師と子育て支援センターの連携はどのような感じで行われてるのかお聞きしたところ、甲府市のマイ保健師さんが支援センターに行き、「あの子は元気ですよー」などと情報交換したり、虐待の疑いのある子について支援センターから保健師さんに連絡が来ることもあるそう。
子育て支援に関する最新知見、9つの分科会
同じく2日目には、計9つの分科会が開かれ、子育て支援に関する最新知見について専門家が説明。保育に携わる参加者はそれぞれの興味に合わせて分科会を受講していました。スマホなどのメディアが子供の成長に与える影響や子供の理想的な睡眠など、専門家が根拠を持って解説するため、受講者はさっそく現場で活かせそうでした。
一方、分科会の中には、日本の子育て環境や保育の仕事がいかに過酷であるかに触れるものもありました。保育、子育ての分野の第一人者、汐見稔幸先生は、16時に保育園が閉まり、それまでに多くの場合パパが迎えに来るドイツの例などを挙げ、日本の少子化・出生率の低迷の問題は、その国の労働環境や国民の人生観・ライフスタイルに関わる問題であることを指摘しました。「11時間も子どもを受け入れてる保育園は世界に例がない、日本だけ、日本は長時間労働だから」のコメントが非常に印象的でした。
「第10回子ども・子育て支援全国研究大会2019」に参加して
以上、「第10回子ども・子育て支援全国研究大会2019in山梨」のレポでした。
子育て支援、それは「この社会で子育てしたいよね」にたどり着くことだと感じました。単に少子化対策の一環として子育て支援があるわけではなく、未来を担う子供が健全に成長していくこと、そして成長を通して親や社会も成長していくこと、それが国が成熟していくことであり、そこに子育て支援の役割があると、大会に参加して分かりました。現場の経験から得られることと学術的な最新の成果を織り交ぜながら、子育て支援はその形を常に変え続ける、その最前線を直に見ることができました。
第10回子ども・子育て支援全国研究大会2019in山梨の詳しいプログラムは大会パンフレットからご覧いただけます。
取材・文章 小田和