こうふDO計画やガバメントクラウド|地方自治体の基幹業務システムの標準化

2023年5月16日

今回は、地方自治体の業務システムの将来の形について、こうふDO計画やガバメントクラウドを交えてご紹介します。

第一次こうふDO計画について

こうふDO(ダウンサイジング・アウトソーシング)計画は、市が情報システム資産を保有せず、必要な機器を購入することもなく、契約業者からアウトソーシングで『サービス』の提供を受けるという事業です。内部管理業務のみならず、国保、年金、介護、福祉、税務などの住民情報を含め、12年間で最大4割弱の経費節減を見込んで2009年から開始しました。

自治体では前例のない長期的かつ包括的なアウトソーシング計画だったため、「甲府方式」とも呼ばれ、全国の自治体が関心を示しました。ハードや機器を自治体が買うことなく、サービスを買う。買うだけでなく、評価し、業者を選定するというのがDO計画の特徴でした。

副題に「12年後の電子自治体ー12年前に今を『想像』できなくても、12年後は今から『創造』できる」と記され、この計画が10年単位の電子化構想であることが印象づけられました。

当時のこうふDO計画の表紙。『12年前に今を「想像」できなくても、12年後は今から「創造」できる』

廣瀬はこのこうふDO計画(現在は「第2次こうふDO計画」が進行中)に注目し、以前より議会で質問してきました。

第二次こうふDO計画について議会で質問

第一次DO計画は、10年間のトータルコストを25%削減しました。

こうした成果を踏まえ、第二次こうふDO計画が2019年から2028年の期間で開始されました。2021〜2030年の期間で策定された甲府市デジタルソサエティ未来ビジョンにおいても、GIGAスクール、エドテック、甲府市地域情報化計画と並び、第二次こうふDO計画が業務標準化・アウトソーシングにおける重要な施策の一つとして位置づけられています。

計画名概要
第一次こうふDO計画定期的なモニタリングを行い、SLA*を実施。10年間の運用で、システム全体の27%の経費を削減できた
第二次こうふDO計画公募型プロポーザルにより選定した事業者がシステム構築を行い、令和2年4月に一部システムを除き、基幹業務、内部情報、インスタ系の全てのシステムが稼働した

*SLA・・・Service Level Agreementの略。発注者とサービス提供者(企業)の間で結ばれる『サービスレベル』の合意、つまりサービス品質保証制度のこと。具体的には、業務内容、仕様、定義、達成目標などが含まれる。

令和4年12月甲府市議会定例会で廣瀬は、こうふDO計画の経緯に触れながら、第二次こうふDO計画の経費削減見込みなどについて代表質問しました。その内容を以下に転載します。

廣瀬の①②③の質問内容をまず掲載し、その下に、市長や担当部局の回答を掲載しています。

※甲府市議会議会局総務課より許可をいただいて掲載しています。なお、定例会の質疑は甲府市HPの会議録からも閲覧可能です。当該箇所を見るには、下のリンクをクリックしたあとに、左バーの「36 ○廣瀬集一議員」をクリックしてください。

地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化についてであります。

国では、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律を令和3年度に施行し、第5条に基づき、標準化の推進に関する基本的な事項について、地方公共団体情報システム標準化基本方針を定めました。統一・標準化の意義と目標は、移行期間を、2025年度までにガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへの移行を目指し、情報システムの運用経費を、2018年度比で少なくとも3割の削減を目指すこととしています。

デジタル社会の実現に向け、地方公共団体の職員が真に住民サービスを必要とする住民に手を差し伸べることができるようにする等の住民サービスの向上を目指すとともに、業務全体に係るコストを抑え、他ベンダーへの移行をいつでも可能とすることにより競争環境を適切に確保する等の行政の効率化を目指し、業務改革(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の徹底を前提とした、標準化基準への適合とガバメントクラウドの活用を図るとしています。

共通的な基盤やデジタルサービスの機能については、デジタル庁が調達・構築し、地方自治体が必要に応じて利用することとなります。具体的には、地方自治体は、ガバメントクラウド上に各ベンダーが構築した複数の標準準拠アプリケーションの中から、各業務で1つの最適なアプリケーションを選択し、調達・利用できることとなります。このことにより、ベンダーの縛り、いわゆるロックインを回避でき、適切な競争環境を確保することができます。

質問いたします。


①第二次こうふDO計画は、運用期間が平成31年度から平成40年度(2028年度)までとなっています。また、甲府市デジタルソサエティ未来ビジョンは2021年度から2030年度となっています。地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化がこの2つの計画にどのような影響を与えるか、当局のお考えをお聞きいたします。

標準化対象事務は、地方公共団体情報システムの標準化に関する法律第2条第1項に規定する「情報システムによる処理の内容が各地方公共団体において共通し、かつ、統一的な基準に適合する情報システムを利用して処理することが住民の利便性の向上及び地方公共団体の行政運営の効率化に寄与する事務」という観点から、選定されることとなっています。

質問いたします。

②地方自治体の事務のうち、地域プラットフォーム・中間標準レイアウトで示されている事務は、住民基本台帳、固定資産税、住民税、国民健康保険や介護保険、児童手当や子ども・子育て支援など、27業務が示されています。甲府市独自でシステム構築が必要な業務はどのような分野があるのか、代表的な項目を列挙していただきたいと思います。

繰り返しとなりますが、地方公共団体情報システム標準化基本方針は、情報システムの運用経費を2018年度比で少なくとも3割の削減を目指すこととしています。地方自治体は、ガバメントクラウド上に各ベンダーが構築した複数の標準準拠アプリケーションの中から、各業務で1つの最適なアプリケーションを選択し、調達・利用できることとなります。このことにより、ベンダーの縛り(ロックイン)を回避でき、適切な競争環境を確保することができるとしています。

質問いたします。

③第二次こうふDO計画・甲府市デジタルソサエティ未来ビジョンは、これらのシステムの統一・標準化において経費削減の見込みはどのようになるとお考えでしょうか。当局の見解をお聞きします。よろしくお願いいたします。

甲府市議会令和4年12月定例会会議録(https://www.city.kofu.yamanashi.dbsr.jp/index.php/4863774?Template=document&VoiceType=all&DocumentID=798#one)

この質問に対しての甲府市の回答は以下でした。

(①の質問に対しての回答)

横打幹雄行政経営部長 地方公共団体情報システムの統一・標準化についてお答えいたします。

国は、地方公共団体情報システムの統一・標準化について、デジタル社会の実現に向けた重点計画として、令和7年度(2025年度)までにガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへ移行することと、これに伴い情報システムの運用経費等を平成30年度(2018年度)比で少なくとも3割の削減を目指すとした目標を掲げております。

こうした中、第二次こうふDO計画は、住民基本台帳システムなど65システムの構築から運用までにおいて、急速に変化するICT環境の中でも安定して高水準のシステムサービスが保証されるよう、一定の支払いに対し、一定の水準を満たすサービスを受けるサービス調達を基本とした計画でありますが、今般義務化された地方公共団体情報システムの統一・標準化に基づき、第二次こうふDO計画により整備している本市の業務形態に合わせた現行のシステム仕様を国の仕様に合わせて変更することが必要となってまいります。

また、地方公共団体情報システムの統一・標準化は、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることのできる人間中心の社会、Society5.0時代を見据えた施策であり、本市においても10年先を見据えた甲府市デジタルソサエティ未来ビジョンへの大きな推進力となると考えており、統一・標準化にのっとったデータ利活用による便利で快適な市民サービスの創出など、ビジョンに基づく事業をこれにあわせて進めていく必要があると考えております。

(②の質問に対しての回答)

次に、標準化の対象外である本市独自のシステムとしては、総合窓口システムやすこやか子育て医療費助成システム等がありますが、今後は、標準化に対応した新たな基幹システムとのデータ連携等が必要となりますので、システム改修等を行ってまいります。

(③の質問に対しての回答)
また、経費削減の見込みにつきましては、現時点において国のシステムに係るトータルコストを見込むことは困難であり、引き続き国の動向を注視してまいりますが、10年間のトータルコストを25.26%削減した第一次こうふDO計画の実績に基づく中で、システム経費の削減を重要課題として取り組んでまいります。

こうしたことを踏まえ、今後につきましては、第二次こうふDO計画の枠組みを生かしつつ、甲府市デジタルソサエティ未来ビジョンの推進により、標準化のメリットを十分に享受できるよう、計画性を持ち、着実に標準化への対応を進めてまいります。

以上でございます。

甲府市議会令和4年12月定例会会議録(https://www.city.kofu.yamanashi.dbsr.jp/index.php/4863774?Template=document&VoiceType=all&DocumentID=798#one)

また、廣瀬はこの回答を受けて、続いて国のデジタル庁が進める自治体の事務を一括して管轄するガバメントクラウドに触れ、甲府市デジタルソサエティ未来ビジョンの現在の妥当性について以下のように質問しました。

◯廣瀬集一議員

御答弁ありがとうございました。大変最近の話題なので、まだいろいろなものが見えない形ですけれども、国でデジタル庁が自治体の事務を一括して管轄するということで、ガバメントクラウドをつくって、全ての自治体がそこへ行くというようなことになっていますので、ぜひ、今の、特に最先端でありますこうふDO計画、それも第二次ということで、新しいシステム、サービスを購入して、そのサービスの対価を支払う。そのサービスの対価も、評価システムをきちっとつくっていくというものが、運用が続けていかれるような形の中で進めていただきたいということと、1つのベンダーに縛られず、いろいろなサービス調達をできるというシステムになっていくわけですから、そういう意味では、今回契約しているベンダーについても、いろいろな融通を利かせていただきながら、自治体としての一番優先の順位というか、できるものを進めていただきたいと思います。

先ほど、答弁で、第二次こうふDO計画で65システムを対象としているということなんですが、20業務から27業務までのものがガバメントクラウドに行って、国を通してベンダーと契約するというようなことになっていくので、根本的な考え方が物すごく変わってきたというふうに思いますし、逆に言うと、標準化されるので、自治体の業務としては大変やりやすい方向も出てきているのではないかなと思います。

ぜひ、サービスをきちっと評価して、サービスの対価として費用を払うというようなところをしっかりと、これから課題を持ちながら進めていただきたいと思いますし、甲府のこうふDO計画のよさをまた全国にも広めていくこともできるのではないかなと思います。何しろ大きな行政の課題になるというふうに思います。

また、コストについては、はっきり分からないと思いますし、ガバメントクラウドに、国から無償で提供されるのか、使用料があるのかということも、かなり課題にはなってくると思いますが、それについても、地方自治体としては、税金を払ったりいろいろなことをしていますので、無償で使わせろというようなことは当然言っていくべきだと思っています。

一点、ちょっと私、再質問したくなったんですが、今回のこの統一・標準化のことに関して変更するのに、甲府市デジタルソサエティ未来ビジョンについては見直しが必要なのかどうか、それについて見通しをお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

◯横打幹雄行政経営部長

廣瀬議員の再質問にお答えいたします。

先ほどの答弁で申し上げました、本市において10年先を見据えた甲府市デジタルソサエティ未来ビジョン、現在推進しているところでございます。こちらも、統一・標準化にのっとって、ますます、今後、データの利活用による便利で快適な市民サービスの創出等の計画がこの未来ビジョンに登載されておりますので、内容を見ながら、必要な見直しについてはしっかりと対応してまいりたいと考えております。

以上でございます。

◯廣瀬集一議員 御答弁ありがとうございます。本当に急激な進展というか、突発的な話のような気もしないこともないので、これについては本当に慎重に、そして真剣に対応を考えていただきたいと思います。それに、こういうことについては、市民の皆さん方にも順次いろいろな情報を流しながら、みんなで共有していくということが必要だと思います。

以上で私の質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。

甲府市議会令和4年12月定例会会議録(https://www.city.kofu.yamanashi.dbsr.jp/index.php/4863774?Template=document&VoiceType=all&DocumentID=798#one)

全国の動き〜「こうふDO計画」を受けて

地方自治体にとって、業務の効率化・経費削減はいずれ直面する重要課題です。そのような背景にあって、甲府市の取り組みは新しいものでした。当時、メディアでも以下のように紹介されています。

総務省は、こうふDO計画や西いぶり広域連合(北海道)の共同アウトソーシング事例などの地方の動きを受けて、業務アウトソーシングの導入を推進するための「地方公共団体におけるASP・SaaS導入活用ガイドライン」を公表しました。

ASPとは「Application Service Provider」、SaaSとは「Software as a Service」のことで、どちらも電算サービス提供(プロバイド)サービスのことを指します。

ガバメントクラウド〜国や地方自治体の行政サービスや市民サービスの全国規格化・クラウド化

ガバメントクラウドとは政府、省庁、国の機関(研究所、独立行政法人など)や地方自治体が共同で利用するクラウド型の行政システムのこと。歴史上最大規模のITインフラとも言えます。

そもそも今は、それぞれの自治体や国の省庁ごとに基幹行政システムを運用しています。自治体ごとにシステム要件や運用方法が異なります。しかし、市民サービス・行政サービスの内容はある程度共通する部分が多いので、プラットフォームは標準化できるだろうという算段は以前よりありました。

今はバラバラな行政システムを標準化して、どの地域でも一般的な業務・行政サービスをまとめてひとつのクラウドで運用しようという考えが生まれました。これがいわゆる「ガバメントクラウド」です。

ガバメントとは「政府」のこと、クラウドとは「専用システムやソフトウェアを使わなくてもインターネットを介して行政サービスを提供できる環境」のこと。

全ての市町村が住民票や地方税など27の業務システムでガバメントクラウドへ移行予定

クラウド・バイ・デフォルト原則が策定され、政府が情報システムを選定、整備する際、それがクラウドサービスであることをデフォルト(第一候補・標準仕様)とするという原則が決まりました。

この流れを受けて、全ての市町村が住民票や地方税などの業務システムをガバメントクラウドに移行予定です。

具体的には、令和2年に標準化対象となる27業務が決定し、標準化への移行の目標時期として、令和7年度までに、標準準拠システムへ順次移行することが決まりました。地方自治体の業務システムのガバメントクラウド化がいよいよ現実味を帯びてきたというわけです。

27の業務システムの内訳(出典:地方自治体によるガバメントクラウドの活用について(案) 令和3年12月.デジタル庁)
令和7年度末にすべての地方自治体が準準拠システムへ順次移行(ガバメントクラウド)
(出典:地方自治体による ガバメントクラウドの活用について(案) 令和3年12月. デジタル庁)

令和3年現在、最新の資料は以下をご参考下さい。

ガバメントクラウドには慎重論も

一方、ガバメントクラウドにはまだ課題があり、議論が必要との見方があるのも事実です。

指摘される課題はたとえば以下です。

・ガバメントクラウドを自治体に適応した場合のコスト削減効果がはっきりしない(本当にコスト削減になるか?)

・ガバメントクラウドを運用する自治体担当者に高度なスキルが求められないか?また、そのような人材をどの自治体でも確保できるか?

・ガバメントクラウドに移行した後に、ガバメントクラウドに移行しなかったシステムの運用管理の負担が増える可能性がある。

一方、クラウドを動かすサーバー本体についても議論があります。

ガバメントクラウドで使うサーバーの公募では、国産クラウドの応札がありませんでした。Amazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud Platform(Google Cloud)など海外の主要サーバーの応札だけとなり、実際にそれらが採択されました。国内のガバメントクラウドを、海外企業のクラウドを前提に整備していくことに本当に問題はないのか?という議論です。また、現在の国産クラウドがガバメントクラウドに求められる高いセキュリティ基準を達成するのは難しいとの見方もあり、ガバメントクラウドはサーバーの国産力も絡む課題を含んでいると言えそうです。

以上、行政サービスのアウトソーシング化、クラウド化の最近の動向でした。

こうふDO計画は、行政サービスアウトソーシング化の先駆けでした。そして、実際にコスト削減と効率化を実現しました。

今後、甲府市や日本の自治体がどのように行政業務のクラウド化を進めていくかは、地域経済や地域財源に関わる重要な課題です。そのため、廣瀬は今後もこの問題について注目し、甲府市議会などでも質問を行っていくつもりです。

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