未来を担うエネルギーとして期待される水素エネルギーは、その実用化が着実に進みつつありますが、山梨県や県内大学、企業が果たす役割が大きいのをご存じでしたか?
この記事の目次
水素エネルギーとは?
水素エネルギーとは、水素と酸素を燃焼させて得るエネルギーや、燃料電池によって得る電気エネルギーのことです。
燃料電池とは、水素やメタノールなどの燃料を触媒を介して酸素と酸化還元反応を起こして直接電気を生成する装置のことです。
電気以外には水しか排出されず、CO2を排出しないため、家庭用発電や乗り物などの次世代エネルギーとして注目されています。
つまり、水素エネルギーや燃料電池で走る車は「水素ガス」を補給することになります。
実際、すでに自動車やバス、電車がすでに走り始めています。
水素で走る燃料電池車の普及台数について
水素エネルギーで走る燃料電池車をFCV(Fuel Cell Vehicle、燃料電池自動車)と呼びます。
FCVの普及台数は令和4年7月時点で7千台以上、FCVのバスの普及台数は120台になっています。2040年には40万台を超えると予測されています。
各自動車メーカーもFCVの製造規模を拡大する計画です。
水素ステーション
このように水素エネルギーの社会インフラは着実に整えられつつありますが、そのキーとなるのは水素供給場所、いわゆる水素ステーションです。
水素ステーションにはオンサイト型とオフサイト型があります。
オンサイト型・・・その場で天然ガスから水素を製造する装置がある
オフサイト型・・・トレーラーなどで水素を外から運んでくる
ちなみに山梨には甲府に「イワタニ水素ステーション甲府」があり、実際に水素自動車の燃料補給に使われています。
ガソリンスタンドのようにたくさんの水素スタンドが必要ですが、全国的に見れば、また商用の水素ステーションの運用は始まったばかりで、今後の整備が待たれるところです。
水素利用が次世代エネルギーとしての位置づけなら、水素を「どのように作るか」もポイントになります。水素燃料を作るのにより多くの化石燃料を使ったり、製造過程でCO2が排出されるなら、次世代エネルギーとは言えないからです。
水素をどこから作るか?
実は水素はバイオマスや石油、石炭、天然ガスなどいろいろな原料から作ることができます。
- 石油から水素を作る反応・・・CO2が発生する
- 石炭から水素を作る反応・・・CO2が発生する
- 天然ガスから水素を作反応る・・・CO2が発生する(石油ほど多くはないが)
- 電気で水から水素を作る反応・・・CO2が発生しない
将来的には太陽光発電や風力など自然エネルギーによる水素製造体制や技術革新を進めることが重要となりますが、現時点では水素は製造方法で以下に分類されます。
グレー水素:石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃焼させてそのガスから取り出した(改質した)水素。CO2が排出される。
ブルー水素:グレー水素と同じ方法で水素を得るが、発生したCO2を大気に放出させずに回収する。
グリーン水素:太陽光や風力など再生エネルギーで作った電気で電気分解して水から作った水素。
また、最近はホワイト水素も知られるようになりました。ホワイト水素は、地中に存在する天然水素で、埋蔵量は不明であるものの、燃やしても化石燃料のようにCO2を出すことはないため、有望視されています。
現時点では、天然ガスから水素を作っても環境面で分(ぶ)があるとされます。燃料を製造するところから通算で排出される二酸化炭素量は、ガソリン車、ディーゼル車は130g-CO2/km以上であったのに対し、天然ガスから得た水素で走るFCVは80g-CO2/km以下だったためです(「総合効率とGHG排出の分析報告書」日本自動車研究所調べ)。天然ガスで作った水素で自動車を走らせても、温室効果ガスの削減効果は得られます。
実際、水素を作るポピュラーな方法の一つは、この天然ガスの主成分であるメタンと水蒸気を反応させて水素を取り出す方法です。
ただし、理想はCO₂を排出しない水素の製造、つまりグリーン水素にプライオリティーがあることには変わらず、その社会インフラを整えることが臨まれます。
山梨での取り組み〜米倉山
山梨県や山梨大学、関連企業は、太陽光発電により得た電気を使った水素の製造技術や燃料電池の技術をこれまで進めてきました。米倉山における一連のプロジェクトです。
米倉山での大規模太陽光発電所
全国有数の日射量を誇る山梨県では、県と東京電力株式会社が共同で米倉山太陽光発電所を建設しました。年あたり一般家庭3,400軒分の年間使用電力量に相当する約1,200万kWh(キロワットアワー)の電力を作っています。出力は10,000kWです。
やまなしモデルP2Gシステム
この米倉山の太陽光発電所で得られた電力を活かして、電力貯蔵技術開発と余剰電力による水素製造技術の開発、実証試験が行われてきました。やまなしモデルP2Gシステムです。
やまなしモデルP2Gシステムとは「Power to Gas」の略。P2Gシステムとは、再生可能エネルギー等由来の電力を活用し水の電気分解から水素を製造する技術であり、カーボンニュートラル社会の実現に向け、再生可能エネルギーの導入拡大と温室効果ガスの削減において、世界的に期待されています。
<参考>P2G(Power to Gas)システム技術開発について(PDF)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000250.000078927.html#
https://hq.pref.yamanashi.jp/article/a00154/
常時安定して得られる電力は電気として電力系統へ送電されますが、気象条件で発電量が安定しないという太陽光発電ならではの「変動する余剰電力」を、固体高分子(PEM)形水電解装置に供給して水素を製造するというのがこのプロジェクトのミソです。このグリーン水素を、企業工場の水素ボイラー燃料などとして供給します。
去る2024年3月、山梨県はこの実証施設建設の起工式を行いました。実証施設は、国内最大運転出力16,000kWの固体高分子形水電解システムで、サントリー南アルプス白州工場・白州蒸溜所(北杜市)に隣接する県有地に建設されます。
これにより、まず北杜市に大規模な水素製造所が完成することになり、工場内で必要な熱エネルギーの燃料がこのグリーン水素に転換されます。さらに、周辺地域へのグリーン水素供給も予定されています。2025年稼働予定です。
まさに、国内外トップクラスのグリーン水素製造利用地域がここ山梨に誕生するわけです。
山梨大学での水素、燃料電池の研究
山梨大学では1978年に工学部に燃料電池実験施設が設けら、燃料電池の研究が進められてきた経緯があり、水素・燃料電池の研究が盛んです。具体的には、以下のような研究成果があります。
- 小型高出力燃料電池の開発
- 高耐久、高性能な触媒の開発
- FCV用触媒の劣化機構の解明
- FCVにおける高温作動に必要な材料の研究
- 燃料電池の研究者、人材育成
出典:山梨大学における水素・燃料電池研究の取り組み(やまなしミライエネルギーフェス2024)
詳しくは「山梨大学 水素・燃料電池ナノ材料研究センター」をご覧下さい。