リニアで山梨の観光・ビジネスはどう変わるか?

2020年7月4日

進められているリニア建設。ここでは、甲府市議会議員の廣瀬集一氏に、リニアで山梨の人の動き、観光、ビジネスはどう変わるか聞きました。

リニアモーターカーと山梨

リニア山梨県駅(仮称)からの人の流れは?

駅は大津に決まりましたが、身延線へ直接接続できる小井川駅付近にする案もありました。結果的には、大津町でも小井川駅付近でも乗降客推定数に違いがないとの推定結果に基づき、小井川駅までシャトルバスを運行する形で大津に決まったところです。リニア開業により、山梨への人の流れや過疎化する甲府市中心地への人の流れはどう変わるか、教えてください。

リニアのルート
出典:山梨県「 リニアやまなしビジョン」(https://www.pref.yamanashi.jp/linear-kt/documents/linearvision-p1-p29.pdf)
※開業年は遅れる可能性があります。

廣瀬議員

現在の甲府市は、第六次総合計画(平成28年度~令和7年度)で策定された都市像「人・まち・自然が共生する未来創造都市 甲府」の4つの基本目標に基づいた基本構想のもと、まちづくりが進められています。この総合計画のもと、甲府市総合戦略/人口ビジョンと甲府市都市計画マスタープランが策定され令和2年3月に「甲府市立地適正化計画」が誕生しました。

「甲府市立地適正化計画」は、急速に進む人口減少や少子高齢化の中で、住民にとって安心で快適な生活環境の実現や持続可能な都市経営を可能とするため制度化され、医療・福祉・商業施設や住居等の集約及び公共交通の充実等により将来にわたり持続可能な都市構造の実現を目指すものです。さらに立地適正化計画に連携して、「甲府市地域公共交通網形成計画」が同時期に策定されました。

以上が甲府市内での、人々の移動を左右すると思われるまちづくり計画です。

リニアの新駅の位置は、長崎新知事が従来からの大津町かJR東海身延線小井川駅周辺かで識者による再検討をされ、また甲府市も検討結果を独自に発表するなどの結果、令和1年12月に大津町と再度決定されました。

リニア中央新幹線は、山梨新駅と品川駅、名古屋駅を東西それぞれ約20分、40分程度で結びます。

リニア中央新幹線を活用することで、品川駅は関西方面の玄関口として多くのビジネスパーソンや旅行客、さらに新羽田空港と最短距離で結ばれインバウンド観光の移動の要となります。富士・東部地域への観光客は年間約1,550万人が訪れていますので、多くの人々が乗降することとなりそうです。

しかしながら、国中地域への観光客等は年間約440万人で1,110万人が通り過ぎていることになります。これらの方々は、リニア中央新幹線を利用して、富士山観光に出かけると思われます。

甲府市の、そして山梨県の観光の課題は、これらの皆さんがいかに甲府盆地を経由して、松本から延びる日本海への道「昇竜道」へ繋げていくかだと思います。

リニア駅からの移動については、甲府市が詳細な検討を行っています。JR甲府駅には国道経由で、約20分、国道とJRを利用して石和へは25分、清里へは68分などと試算しています。富士東部圏域とは、新たな道路と自動車交通体系が必要となりそうです。

リニア駅ができたからといって、甲府の中心街が急に人であふれることはありません。今から人の移動を誘導する施策が必要です。まず、コンベンションの誘致です。各種団体が毎年1,000~2,000人規模の関東地区や全国大会などを持ち回りで開催参加しています。JR甲府駅周辺の保有しているコンベンション施設の収容人数は、約2,000人あります。甲府市や山梨県はそれぞれの業界と連携して積極的な大会誘致に取り組むべきだと思います。

山梨で開催された保育研究大会会場マップ。甲府駅周辺にコンベンション施設が充実していることが分かる。

さらに、甲府の中心地は立地適正化計画などを活用して整備に取り組むべき時が来ています。このときに、地場産業である宝飾やワインなどの集積を構成するべきだと思っています。東京のアメヤ横丁、ドバイのゴールドスークのイメージです。

世界的に新型コロナウイルス感染が拡大しています。日本においては、日本人の清潔感や習慣により奇跡的にパンデミックは抑えられているように思います。しかしながら、東京一極集中は、日本各地に感染を広げる結果となりました。テレワークやテレビ会議など最新の技術を活用して不要・不急の仕事が検討されています。20世紀終わりに、「日本コリドール構想」という壮大な計画がありました。日本の首都を東京と大阪の二極構造にして、リニア中央新幹線でつなぎ短時間で結ぶことにより、自然災害等に対応できる国づくりを構想していました。

山梨県はこのコリドール(回廊)の中間地点にあります。地価も安価で国立公園で囲まれた突出した自然の公園のような土地柄です。東京圏や大阪圏の会社や官庁が支店や営業所を開設するにはベストの地理的位置にあると思います。

リニア駅ができて、山梨への人足は増えますか?それとも素通り?

リニア駅ができても、山梨は素通りされるだけとの意見もあります。長期的なビジョンでの議論になろうかと思いますが、廣瀬議員はこれについてどう捉えていますか?

廣瀬議員

リニア中央新幹線ができると、関東と関西間の人の移動は格段に増えていくと思われます。かつて、東海道新幹線や上越新幹線ができた時、格段に人の移動が増えましたが、ビジネスパーソンのほとんどが日帰りとなり、地域経済が衰退していったということが起きました。

山梨のまず考えるべきことは、新型感染症の教訓に学ぶ定住政策と新たな観光ルート開拓であると思います。空き家対策など定住しやすい環境づくりと教育環境向上の施策が急務だと思います。山梨県や甲府市は富士東部圏域観光に加え、日本海観光ルートの浸透を目指すべきと考えます。

さらに、輸送体系を考察してみると、山梨県は三種類の環状高速道路網体系に囲まれ、これらを串刺しにする中部横断自動車道の開通が見込まれています。三種類の環状高速道路網といわれるのは、首都圏央道路(スモールドーナッツ)と、上越長野高速道中部横断道路(ミドルドーナッツ)と、北陸自動車道をめぐる(ビックドーナッツ)の存在です。首都圏を経由せずに災害時でも日本の東西をつなぐことができ、真ん中を南北に貫く中部横断自動車道が重要になると思います。

災害時、首都圏を経由せずに日本の東西をつなぐことができる

俯瞰的に日本経済を眺めると、山梨県は物流の拠点としても大きな存在として注目を集めると思います。さらに、日本海新潟港などの存在が、ヨーロッパへの海運輸出構造を大きく変えるかもしれません。スエズ運河経由と比較すると、時間も経費も1/5以下ともいわれています。新たな発想を模索したくなります。

リニア駅名や駅舎のデザインは?

リニア駅名や駅舎のデザイン、コンセプトについて決まっていることはありますか?

廣瀬議員

駅建設が、大津町に決定されました。北口の中央自動車道のスマートインターチェンジと駐車場建設は、予定通り進められます。しかしながら、南口の開発と周辺の整備計画は、駅のイメージとして、飛行場のパーキングのようなものから、商業施設やコンベンション、スポーツ施設まで様々な青写真が描かれましたが、白紙状態となっています。

JR身延線とは自動運転の送迎バスなどの最新技術が期待されています。

さらに水害対策などに配慮した地域づくりが求められていて、山梨大学地域防災・マネジメント研究センターの「50年後の甲府盆地 自然ミュージアムパーク」構想など、自然災害を『かわす』まちづくりとして優れた構想が提案されています。

「リニア甲府駅北口のイメージ」水害に強い甲府盆地推進研究会(山梨大学地域防災・マネジメント研究センター 代表 鈴木猛康)(許可を得て掲載)

環境面など、リニア建設がもたらす負の側面をどう捉えていますか?

南アルプスにトンネルを通すなど、自然環境への影響を危惧する声もあるようです。また大井川の水量についての影響も計画延期の論点となっています。新しい事業を行う以上、環境面への影響はある程度生じると思いますが、廣瀬議員はリニアの環境面への影響についてどのように考えていますか?

廣瀬議員

南アルプストンネルの掘削は、大井川/天竜川の水源等の課題を抱え、停滞しています。その他騒音や電磁波の課題がクローズアップされます。騒音の低下や電磁波の遮断は技術的に大きく減少させることが可能だと考えています。

リニア中央新幹線はあまりに壮大な計画でもあるため、環境問題が大きな課題となってきます。黒部ダムのトンネル工事は、あまりにも困難であったため映画となって現在も放映されていますが、日本海地域の水がめとして、観光の拠点として繁栄しています。日本のトンネルの掘削技術は世界最高水準です。東京湾の海底トンネルや青函トンネル、イギリスとフランス間のド-バ-海峡トンネルの掘削の完成は、これらの技術を世界中が認めるところとなっています。公共工事はアセスメントの信頼性を増し、地元との協議を充分に行う中で事業を進めていくことが必要なのではないかと思っています。通過地域には大きなメリットはないかもしれませんが、日本の国づくりや企業・地域・家庭のために働きながら山梨を通過する方々にも、大きな感謝をすることも大切だと感じています。

日本の国を未来に引き継ぐために、自然災害に対応しながら、経済、教育、環境保全、地域づくりを考え進めることが必要だと思います。

以上、「リニアで山梨の観光・ビジネスはどう変わる?」、甲府市議会議員の廣瀬集一さんへのインタビューでした。

 

ヒノキブンコ 小田和

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